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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)3788号 判決

理由

被告大生相互銀行は、昭和一七年九月三〇日無尽業務を目的として設立され、昭和二六年一〇月一六日、その目的を相互銀行業務にその商号を株式会社大生相互銀行と変更したものであり、被告飯島は昭和二五年三月から同三四年一〇月まで被告銀行に勤務し支店長代理の地位にあつたことは、当事者間に争いがなく、被告本人尋問の結果によれば、右支店長代理の地位の始期は昭和二六年中であることが認められる。

そこで、第一次的請求について判断する。

原告かくが、昭和二八年一一月初旬金八〇万円、同二九年七月三日、同三〇年七月三日、同年一二月三日、同三一年七月三日、同三二年一月七日、同年五月初旬各金二〇万円、同年一一月初旬金五〇万円、同三三年一一月初旬金一〇〇万円合計金三五〇万円を、同まさ子が、昭和三二年一〇月初旬金一〇万円、同三四年四月初旬金三〇万円合計金四〇万円を、それぞれ被告飯島に交付したことは、原告らと被告飯島との間に争いがない。原告らは、右各金員は、原告らが被告飯島に騙取されたものであると主張するけれども、これに副う峯岸かく、峯岸まさ子各原告本人尋問の結果は措信し難く、他に全立証をもつてしてもこれを認め得ないところ、却つて(証拠)によれば、原告かくは、右金員中第一回分八〇万円を交付するに当り、これを被告飯島において他に高利に貸与して、利息を原告かくに支払われたき旨依頼し、被告飯島はこれを承諾し、月三分五厘の利息を原告かくに支払うことを約し、その後一年を経て月二分五厘の利息に更めたが、右第二回以後の金員も右趣旨で被告飯島に交付され、原告まさ子の被告飯島に対する前記各金員も右と同様の趣旨で被告飯島に交付され、被告飯島は、昭和三四年八月まで毎月初め右約束の利息を全て支払つていたことを認めることができる。したがつて、原告らが被告飯島に交付した各金額は、被告飯島が騙取したものではなく、原告らが被告飯島に任意交付したものであるというべきである。

次に、原告峯岸かくと被告銀行との間に六口の相互掛金契約がなされていたこと、右各契約は合意解約されたことは当事者間に争いがない。(証拠)によれば、原告峯岸かくは、昭和三四年一一月五日頃被告飯島に右相互掛金契約の通帳を渡し、右解約に基く解約返戻金を被告銀行より受取つてきてくれるよう委任し、被告飯島は、内妻古川タカに対し、昭和三四年一一月一三日、右通帳と、予ねて、原告かくの同意を得て、右相互掛金契約に使用するため保管していた右通帳に押捺してある印影と同一の印鑑とを渡し同被告の使者として、右相互掛金契約の解約をなすべきことを命じ、内妻古川タカは、同日被告銀行浅草支店に至り、領収証に右印鑑を押捺して被告銀行に提出し、前記相互掛金契約の解約を申込み右銀行では通帳の印影と領収証の印影とを照合の上、内妻古川タカに二金五万六千円を支払つたことが認められ、これに反する原告峯岸かく、同峯岸まさ子の各本人尋問の結果は措信し難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告かくは、被告飯島は、右返戻金中金二四万円を横領した旨主張するけれども、これに副うが如き原告峯岸かく、同峯岸まさ子の各本人尋問の結果は措信し難く、その他全立証によるも右事実を認め得ざるところ、却つて被告飯島本人尋問の結果によれば、被告飯島は右解約の翌日である昭和三四年一一月一四日、原告かく方に至り、同原告に対し、右返戻金二五万六千円を前段認定の他に高利に運用するための貸付資金に繰入れたい旨申向け、同原告の同意を得たこと並びに現在においても、右返戻金は、前段認定の借入金と共にこれを原告かくに返済する意思を持つているけれども、貸付金の回収ができず、実現に至らないことを認めることができる。

以上のとおりであるから、原告らの被告飯島に対する不法行為に基く請求はいずれも失当である。したがつて、右不法行為を前提とする被告銀行に対する請求も失当であること明白である。

次いで、予備的請求について判断する。

第一次的請求についての判断により明白であるように、原告らの被告飯島に対する各金員の交付は、被告飯島個人に対し、他に高利で貸与して、有利な利殖を図る目的で任意交付されたものであるから、これによつて、被告銀行と原告らとの間に預金契約が成立する余地はなく、また原告かくの前記相互掛金契約六口は、原告かくと被告銀行との間に正当に合意解約され、返戻金も原告かくの代理人である被告飯島に交付されているから、原告かくは被告銀行に対し右相互掛金契約につき何らの請求権を有しないこと明白である。

よつて、原告らの第一次的及び予備的請求はいずれも失当である。

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